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【現地レポート④】男女決勝総評 – 男子・SR渋谷が 5 年ぶり 2 回目、女子・JX-ENEOSが 7 年連続24回目の優勝で閉幕 –

「第95回天皇杯・第86回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会」のファイナルラウンドは最終日を迎え、今年度の天皇杯、皇后杯をそれぞれ獲得し、日本一に輝くチームが決まった。

【皇后杯 決勝】
JX-ENEOSサンフラワーズ 83-53 デンソー アイリス

「相性がいいんですよね、このアリーナ」

 そう語るのは皇后杯を 7 年連続で獲得したJX-ENEOSの宮澤夕貴である。多くのチームのシューターが不慣れな空間にシュートタッチを乱すなか、宮澤はファイナルラウンドの 3 試合で14本中 7 本の 3 ポイントシュートを沈めている。

「すごく体が軽くなるんです。コートの感触というか、フロアの滑り具合などもよくて、試合を重ねるたびにここでよかったなと」

“ここでよかった” というのは、今夏の東京オリンピックでバスケットボールの試合会場になっているのが、他ならぬ「さいたまスーパーアリーナ」なのである。

「自信になるというか、これでオリンピックも行けるという自信が毎回募ってきます」

 皇后杯の 7 連覇もさることながら、その向こう側には世界が見え隠れしている。それが今の日本の女子バスケットである。
 まだ最終メンバーが決まったわけではない。しかし会場との相性がいいシューターがいるだけでも、日本にとっては大きな追い風となる。

 追い風は、むろん宮澤だけではない。その宮澤は敢然と立ち向かったデンソーの赤穂ひまわりの成長も日本にとってのそれとなりうる。
 赤穂 (ひ) は 2 年前の皇后杯でもJX-ENEOSと対戦し、同じように宮澤とマッチアップしている。しかしそのときは 2 得点に終わっている。今日は 8 得点。

「2 年前は攻めもしなかったけど、今日は攻めることができたので、次はシュートを決められるように練習しなきゃいけないなって……」

 赤穂 (ひ) はそう振り返っている。前進である。

 JX-ENEOSの宮澤がその赤穂 (ひ) に「やられてしまった」と試合後のコートインタビューで語るのを聞いた彼女は「フフフ、やられてしまったって、宮澤さんのほうがやっていたじゃないですか (※編注:宮澤は21得点)。自分のほうがやられてしまいました」と言い、さらにこう続けている。

「そこで宮澤さんに勝たなきゃいけないなって思っています。もっともっとマッチアップして、どんどんチャレンジしていきたいです」

 皇后杯をかけた緊張感のあるマッチアップのなかで、女子日本代表がより強くなっていく。

【天皇杯 決勝】
サンロッカーズ渋谷 78-73 川崎ブレイブサンダース

 敗れた川崎は、キャプテンの篠山竜青とマティアス・カルファニがケガのため大会に出場できず、また藤井祐眞ら体調を崩した選手も出てしまって、けっして万全のチーム状態ではなかった。それでも 3 年ぶりに決勝戦の舞台に立った意義は大きい。
 なかでも辻直人の躍動がファイナルラウンドのチームの躍進にもシンクロした。

「(準々決勝後、体調を崩した) 藤井がいなくなって、やらなきゃいけないというか、今のままじゃいけないと思って、過去の自分がいいときの映像を見たんです。そこで『自分は何をしているんだろう?』と思って、試合が始まったら、いろいろ考えるのをやめられたんです。そのおかげで集中できて、踏ん切りのいいプレーというか、自分らしい、リングしか見えていないプレーができたんじゃないかと思います」
 
 昨シーズンのケガが思うような回復を見せず、どこかで辻の持つ明るさ―― 性格的なものではなく、彼のプレーが醸し出す陽気さ―― がどこかで失われていた。しかし今大会の辻は、チームのアクシデントのなかで光明をつかんだように見えた。本人もこう言っている。

「ケガから復帰して、なかなか自分が出せなかったんですけれど、昨日、今日と自分のプレーはこうだと周りの人にも見せられたと思うんです。自分の中でもよみがえった感じがしたので、シーズンを通してまた、本当のステップアップができるんじゃないかと思っています」

 緊張感のあるゲームはひとりの選手をよみがえらせる力もある。

 5 年ぶりに天皇杯を獲得したサンロッカーズ渋谷 (※前回は前身の日立サンロッカーズ東京時代) は、当時とは異なるチーム力で栄冠を勝ち取った。しかし多くの選手の集合体であるチームには求心力となるべき選手が必要である。
 SR 渋谷のそれは間違いなくベンドラメ礼生だ。

「勝負所で自分にボールが回ってくると思っていたし、点数が欲しいときに取らなければいけないのは僕だと思っています。第 2 クォーター、チームがアウトサイドからのシュートばかりになって流れが悪くなったときに、後半僕がリングにアタックできたことはすごくよかったし、それが僕の仕事だと思っていたので、そこは心がけていました」

 ベンドラメが最後まで崩れることなく、自分の役割を徹せられたことが優勝につながったといえる。それはチームのみならず、彼自身の “自信” にもつながる。

「シーズンを通してポイントガードで試合をすることは僕にとってもすごくいい経験になりますし、今シーズンすべてが日本代表へのアピールだと思っているので、こうやってタイトルを獲れたことはいいことだと思います」

 もちろん満足しているわけではない。ここ数年、天皇杯を下賜されたチームがリーグ戦で優勝できていないことはベンドラメも承知している。この自信を B リーグでさらに昇華させ、チームの 2 冠、および今夏に控えている東京オリンピックの代表選考にもつなげていきたいと考えている。

「自分のプレーの内容をもう一度見直して、反省点を出していきたいと思います」

 天皇杯はゴールではない。ここから世界の扉は開かれる。

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